『マーケティング』とは『経営』そのものである
前回紹介したファーストリテイリング(ユニクロ)会長兼社長 柳井正氏の最新著書『成功は一日で捨て去れ』に続き、現役経営者の良書を紹介したい。
参考ブログ)
2009年10月24日 (土) 「ユニクロの強さは『市場の創造』にあり。」
http://noir-kuon.cocolog-nifty.com/blog/2009/10/post-e998.html
今回紹介するのは、日本コカコーラ会長 魚谷雅彦氏の著書『こころを動かすマーケティング』。魚谷氏は、同志社大学卒業後、オーラルケア製品の代表的企業であるライオンにて営業から最年少でプロダクトマネージャーに就任、いくつかの外資系企業を経て、1994年に日本コカコーラ株式会社のマーケティング部門を統括する副社長に就任、2001年には社長に就任し、2006年より現職に至っている。
同署で多くの誌面を割かれているのは、副社長時代の奮闘ぶり。中でも、日本コカコーラオリジナル製品であるコーヒーの『ジョージア』や『爽健美茶』、『紅茶家伝ロイヤルミルクティ』、『Qoo(クー)』らをヒット商品として育て上げた軌跡について、非常に興味深いエピソードが満載である。
魚谷氏が日本コカコーラ社に入社した時点での同社のもっとも大きな課題は、缶コーヒーブランド『ジョージア』のてこ入れであった。当時ジョージアは、味では高い評価を受けており、100万台近い同社の自販機の力もあって、シェアは国内No,1であったものの、サントリーの『Boss』にブランド認知度で大きく水をあけられ、シェアもジリジリと低下傾向にあった。
当時は、まだ米国本社の意向も強く、本社の方針に『缶コーヒー』イコール『ブルーカラー(肉体労働者)の飲み物』という方針でCMが作られていたそうだ。しかし、そもそも日本での主たる顧客は中流の男性サラリーマン。そこで同氏は、すでに進みかけていたCMプランを強引にキャンセルさせ、ターゲットとなるサラリーマンの心に届くCMづくりに着手した。
当時はバブル崩壊直後、元気を失いかけていたサラリーマンに対して「ちょっと一息つきましょうか」というテーマのもとに、大物タレントT氏とその弟子であるT軍団が出演するCMに決定した。しかし、「さあ撮影」という段階で、T氏がバイクで転倒事故を起こして重症、CMプランは白紙に戻さざるを得なくなるという事態に追い込まれる。
そんなときに、広告代理店の社長がポツリと放った、「ターゲットの男性の心に響くのは、やはり女性の「お疲れ様」というひとことじゃないでしょうか」、という一言が奇跡を呼び込む。ターゲットは男性=男性タレント起用という常識から逆転の発想で、当時まだまだメジャーの一歩手前だった飯島直子を起用した。彼女起用した「男のやすらぎキャンペーン」が大ヒットし、ジョージアは3年後に国内シェア10%アップを実現したという。
時代は下って2000年、再びシェアが低下傾向にあったジョージアが復活を遂げる。バブル崩壊からだいぶ時間も経過したこともあり、「一休みしよう」から一歩踏み込んで「明日もあるから、がんばろう」というメッセージが心を打つと同社は分析、その結果作られたのが、「明日があるさ」のテーマに乗って吉本芸人が総出演した、あのCMである。
このCMは、日本CMの世界での最高賞ACC賞グランプリを受賞したにとどまらず、このCMからドラマや映画が生み出され、さらにはCDも発売、年末には何とNHK紅白歌合戦に出演という一大ムーブメントに発展する。 こうした反響に対して魚谷氏は、「あのCMから元気がもらえた、という声を聞くたびに、僕は本当にいい仕事ができてよかった」、「人に喜んでもらえるのがうれしい。それがマーケターです。」と同書にて述べている。
新たな需要の創出というと、すぐに我々は「新製品の発売」を思い浮かべてしまうが、このようにすでに今ある商品であっても、ターゲットとなる顧客を徹底的に分析し、彼ら(彼女ら)の心を動かすマーケティング戦略を展開することで、『市場の創造』は可能である、ということを、同書は教えてくれる。
そのほかにも、同社の基幹商品である超ロングセラー商品『コカコーラ』の強さや、安易なウーロン茶市場への参入を戒めて新たな市場を創出した『爽健美茶』ヒットの裏側など、「マーケティング」に徹底的に取り組んできた同氏の視点から、眼からうろこの記述が満載である。以下、目次から抜粋。
・「商品さえよければ」、「営業力さえあれば」売れるという発想の危険
・誰に一番飲んでほしいかで、ネーミングに入れた一文字
・「平均点」マーケティングは失敗する
・マーケティングとは、「明日」のために行うもの
・マーケティングは、経営そのものである
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