『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』-1
このブログでたびたび、「リーマンショックでいとも簡単に赤字に転落し、来期も赤字が予想されるトヨタは果たして一流企業と言えるか?」と疑問を呈してきたが、これは何もトヨタが嫌いだから、という訳ではない(少し前に続々と出版された”トヨタ礼賛本”には辟易としていたが)。
では、なぜトヨタを題材に取り上げるのかというと、トヨタの持つ強さは日本の製造業が共通して有している強さであると同時に、トヨタの持つ弱さは日本の製造業全体が抱える弱さである、という気がしてならないからだ。
6月25日に行われた豊田章男新社長の就任後初の記者会見で、「『トヨタ丸』は嵐の中の海図なき航海に出ました。」とのコメントを発したのは、トヨタが未だに明確なビジョンを描けていないことの表れといってよい。
たびたびブログで指摘したとおり、トヨタが抱える最大の弱みは、「自分のコントロール下にある「カイゼン」には滅法強いが、コントロール下にない不確実な未来に対して、決して鋭い洞察力を働かせることを得意としているとは言い難い」という点であると考える。
そして今まで、(あえて言う)たまたま好調を維持し続けられたのは、約十年前にオリックスの宮内義彦会長が指摘したように、「家電業界は、テレビはブラウン管から液晶に移り変わるなど、”非連続の時代”に突入した一方、自動車は4輪で走り続けることには変わりがない”連続の時代”が続き、コツコツと改善を積み重ねることが強みにつながる。」という状況が続いてきたからだ。
そして時代は下って現代、今や自動車も”非連続の時代”に突入しようとしている。ガソリン自動車から、ハイブリッドカー、そして電気自動車。いや、むしろ若者の”車離れ”や、インドの自動車メーカー、タタ・モーターズが発売した激安カー”ナノ”のような自動車のコモディティ化など、自動車業界をめぐる”非連続”の足音が一歩一歩近づきつつある。
2009年5月10日 (日) トヨタの経営力って一流?
http://noir-kuon.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-9b47.html
2009年6月22日 (月) 「非連続の時代」とトヨタ
http://noir-kuon.cocolog-nifty.com/blog/2009/06/post-06e3.html
2009年7月27日 (月) 『トヨタ土壇場』
http://noir-kuon.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/post-bf2a.html
このように、トヨタだけに注目して、現在の日本の製造業が抱える弱さを分析してきた訳が、先日読んだ『ものつくり敗戦』によると、日本の製造業が抱える弱みは、明治以来の日本の科学技術産業が抱える共通の弱みであることが指摘されている。具体的に、「普遍性への感度の低さ」、「見えないものを見る感受性の低さ」、「ハード偏重、ソフト軽視」を克服して、「複数の知から新しい知を創造する”知の統合”」、と「「モノ」重視から「コト」重視へのことつくり」を、日本の技術の政策目標としなければ、科学技術立国としての日本の未来は危うい、と同書は警鐘を鳴らしている。
2009年7月29日 (水) 『ものつくり敗戦』
http://noir-kuon.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/post-8ba4.html
では、日本の(製造業に限らず)企業は、いかにすれば明るい未来を切り拓けるのか?それを考える上で最良の書籍を、最近読むことができた。それが先日も紹介した、『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負け続けるのか』(妹尾堅一郎著)である。
同書は序章において、「日本の自動車産業 最大の危機」と題し、日本製造業(あえていう)最後の砦である自動車産業までもが、”非連続の時代”に入りつつあることを予見している。
同書によると、「自動車産業 最大の危機」の主たる要因は「電気自動車の登場」であるとしている。電気自動車の登場によって、従来のガソリン自動車で発揮されていた自動車産業の強みである「インテグラル(摺り合わせによる統合)」の時代は終わりを告げ、自動車もパソコン同様に「モジュラー製品」になってしまうからである。
以降の章で、なぜ日本が『技術力で勝って事業で負けるのか(著者のたとえによると17安打で20残塁、得点ゼロ)』についての徹底した要因分析を行うとともに、「ではどうすれば良いのか?」という提言について、事例を交えて(分厚いが)わかりやすく書いてある、近年まれに見る良書である。あまりにも紹介したことが多いので、続きはまた次回。
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