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2009年5月 5日 (火)

新卒採用の是非

 たびたびこのブログでも話題に取り上げている通り、高度成長期以来の右肩上がり経済はすでに終焉しているにもかかわらず、むしろそれに逆行するかのように終身雇用制度を希望する若者が増えつつある。しかし、安全を求めれば求めるほど、むしろリスクは高まる。だから勝間和代氏が主張しているように、「会社に人生を預けて」はならない。

 そこで着目すべき点として、終身雇用を期待させる出発点である、”新卒採用”の是非について考えてみたい。個人的な体験から言うと、そこそこの規模、体制の整った企業に新卒で入社したことは、その後の自分の人生にとってプラスであったことから、新卒採用には肯定的な印象を持っている。

過去のブログ記事)

・大企業が人材輩出業たれ!

http://noir-kuon.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/post-1d37.html

・転職は自主的な「人事異動」だ!

http://noir-kuon.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-236d.html

 しかし、人事コンサルタントの城繁幸氏は、「新卒採用は弊害が多く、無意味化するのが望ましい」との主張をしている。同氏の考察によると、日本で起業が活発でないのは、「新卒カードがあまりにも重過ぎること」であり、「日本において起業するということは、昭和的価値観に歓迎してもらえる唯一のパスポートを自ら捨てることを意味する」からであると言う。

参考ブログ)城繁幸氏ブログ『新卒一発勝負の弊害』

http://blog.goo.ne.jp/jyoshige/e/f504efb48ef9d75d0afd68a7b63f6460

 確かに、アメリカのように大学卒業後、ベンチャーを立ち上げる人材は少ないかもしれない。私の知り合いにも1名、大学卒業後にすぐに会社設立、という女性もいたが、非常にまれなケースだ。しかし、日本社会にとっては、「大学卒業してすぐの起業家が少ないこと」よりもむしろ、「いったん新卒のレールから外れてしまうと、正規雇用のレールにのることが極めて困難であること」の方が、はるかに問題として大きいのではないかと、個人的には考えている。

 特に悪質(あえて言う)なのはキヤノンなど大手製造業で、明らかに長期雇用しているにもかかわらず、派遣から請負など、あの手この手で契約内容を切り替え、正規雇用を頑として受付けない企業姿勢には、首を傾げざるを得ない(この点は、『偽装請負』や、『雇用融解』などの書籍に生々しい事例が紹介されている)。

 なぜ大手は、こうした明らかな”非正規雇用者差別”を行っているのか?もちろん、環境変化に対する労働需給調整、という意味合いもあるが、正社員言えども工場閉鎖ともなれば解雇されることもありうるわけで(昨日のNHKニュースでも、パイオニアのプラズマディスプレイ工場が閉鎖し、職を失った熊本県出水市のパイオニア正社員が紹介されていた。)、何ゆえそこまで正社員かを拒むのは解せない。

 その根底にあるのは、骨の髄まで”終身雇用”に染まりきっている人間が、現在の大手経営者・経営幹部として製造業の中枢を担っているからではないだろうか。NIRA研究報告書の緊急提言『終身雇用という幻想を捨てよ』によると、製造業、とくに大手ほど長期雇用の傾向が著しく、従業員1000人以上の製造業においては、50歳~54歳の男性社員の平均勤続年数は30.2年、55歳~59歳の平均勤続年数は33.7歳と、見事なまでに”終身雇用制度”にどっぷりつかったムラ社会の人間で構成されていることがうかがい知れる。

参考)

NIRA研究報告書 緊急提言『終身雇用という幻想を捨てよ』

http://www.nira.or.jp/outgoing/report/entry/n090406_330.html

 ちなみに城繁幸氏と私とは、1973年生まれの同学年だが、彼は新卒後、まさに”終身雇用制度”の価値観にどっぷり浸かった会社で働いていたのに対し、私は地方の中堅スーパーという、”終身雇用制度”とは比較的縁の薄い企業で働いたため、新卒の是非に対する見解の違いにとして現れているのだろう。

 また、現在中小企業診断士として、日々中小企業の現場に立ち会うことが多いが、企業人として訓練が施されていない人材だけでは、(一応は株式会社であっても)個人事業の壁をなかなか破れない。やはり、そこに外部の血、特に中堅以上の企業経験者が経営幹部として入社し定着することが、企業として着実に成長・発展を遂げることの必要条件ではないか、という実感がある。ゆえに、「大企業が人材輩出業たれ!」という主張を行う訳である。

 話は少しそれたが、大企業(特に製造業)においては、あくまでも”終身雇用制度”を前提としつつ、環境変化に対して配置転換や出向などで雇用調整を行ってきた訳だが、右肩上がりがもはや望めなくなった1990年代以降、もはや終身雇用を前提とした雇用調整は不可能となった。したがって、老いも若きも、「終身雇用を希望する」というナンセンスな幻想を持ち続けることは、日本経済にとっても個人にとっても、「百害あって一利なし」であることを、我々は早く自覚する必要があるだろう。

 度々紹介している池田信夫教授のブログによると、「需要の変動に対応して雇用調整を行なうメカニズムが、解雇(50年代)、配置転換(60年代)、出向(70年代)、非正社員(90年代)と変化してきたのである。このうち出向までは日本的雇用慣行の枠内の調整だが、90年代以降はそうした調整メカニズムが機能しなくなっているため、雇用調整が円滑に行なわれない。」との現状を踏まえ、

 「現代の最大の問題は賃金の分配ではなく、正社員と非正社員の身分格差が固定し、正社員も社内失業しているという人的資源の浪費である。80年代まではかろうじて雇用調整のバッファとなっていた系列構造が崩壊した今は、労働者の選択肢を広げる多様な雇用契約が必要だ。」と主張している。

参考)池田信夫ブログ『雇用調整のメカニズム』

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/1d2ad3efc240ee1992fcb2203ed1f9f3

 最後に、前述の城繁幸氏のブログに興味深い調査結果が紹介されていた。

「高橋俊介氏(慶応大)のマネジメント論に、いくつか興味深い視点が述べられている。 ~中略~ 六大学対象の調査で明らかになったという、「自分に自信がある学生ほどリスク型の就職を目指し、自信の無い学生ほど安定志向である」という結果。」

「年功序列制度とは要はその年齢層の平均賃金のことであり、平均以上の人は損で、平均以下の人材にとっては美味しい仕組みなのだから、こうなるのは当然である。自動車や電機の採用担当者の中には「最近の学生はバカになった」と嘆く人がよくいるが、自分の会社が割に合わない会社に成り下がっただけだ。学生は合理的な選択をしているにすぎない。 ~中略~ リスクを取りたい優秀な学生(ただの自信過剰かもしれないが)は間違いなく増えている。」

 この調査結果を見ると、トータル的には安定志向が強まっているとはいえ、リスクをとりたい優秀な学生が新たなダイナミズムを呼び起こし、次代の日本活性化に寄与するのではないか、という期待感を抱かせる。同氏は、「彼らのふつふつとたぎるマグマを受け入れてくれる器がなかなか存在しないこと」を懸念材料としているようだが、私はそれほど心配しない。大企業で基礎力を蓄えつつ、しかるべき時期が来たらそこを飛び出せばよいのだ。結論として、前回のブログと同じフレーズで締めくくりたい。

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“無料求人誌”は雇用創出する社会インフラ
◆求人誌を支えてきたのは派遣業界
ここ数年、派遣業界を支えてきた「無料求人誌」が、そしてその「ラック(棚)」消えています。この度の雇用崩壊で、最もその影響が顕著に現れているのが求人誌です。とくに無料求人誌は、主な鉄道駅やコンビニから街中から、場所によってはそのラックごとすべて消えつつあります。求人が減少するのは雇用崩壊の勢で仕方がない話ですが、こうした現象は、求人誌がいかに派遣業界に支えられ発展成長してきたかという証です。
◆求人誌は「社会インフラ」の一つ
◆今こそ問われる「求人誌の真価」
 求人業界はこれまで景気上昇と共に発展成長してきましたが、少し業績が悪化したことを事由に、業界が構築したこの「社会インフラ」を崩壊させてしまう責任をどのようにするつもりでしょうか。果たして、それは一企業にとって都合が良い時だけの一時的な社会インフラだったのでしょうか。世界同時不況の直撃を受けた今こそ、雇用創出のために「無料求人誌」の真価が、そして会社存在のあり方が問われるべきです。
詳細は下記ブログを参照下さい
◆人事総務部ブログ&リンク集
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